伝統技術をアートに! 100年先を見据える仏壇職人の癒やしの味「かあちゃんのうどん」

仕事やモノづくりへのこだわりと同じく、食にも独自のこだわりを持つ職人をフィーチャーする「職人めし」。

第20回目の今回は、愛知県幸田町にある都築仏壇店の三代目・都築数明さんに、現代アートへのチャレンジを初めとした100年先を見据えた取り組みと、ほっと温まる「かあちゃんのうどん」についてお話をお伺いしました。

伝統工芸は海外で通用する! 業界の枠を飛び越え、ワールドワイドに活躍する都築数明さん

「最初は家業を継ぐなんて全然考えていませんでした」と話すのは、都築仏壇店の三代目である都築数明(つづき かずあき)さん。その考えが変わったのはアメリカ留学から帰ってきて、家業の手伝うようになってからだそうです。

都築さん 留学して帰ってきたらバブル崩壊後の就職氷河期だったんです。それでアルバイト感覚で家業を手伝うようになったのですが、そこでものづくりの楽しさに目覚めました。もともとプラモデルとかを作るのも好きでしたし、ものづくりの世界で暮らすのもいいかなと。本格的に修行をはじめたのはそれから。漆塗りの修行にも行きました。

実は三河地方は300年以上の伝統を誇る仏壇の産地の一つ。現在は国が指定する「伝統工芸」の一つとなっています。矢作川の水運のおかげで材料となる木材が入手しやすかったことに加え、寺が多く信仰の篤い地域であったことも三河仏壇の興隆の礎となりました。

また、近年では自動車産業の発展にともなって他地域から移住してきた人たちも多く、そうした方がご先祖様に手を合わせるための仏壇を求める需要が多かったといいいます。

都築さん 名古屋も仏壇が盛んなのですが、水害が多い地域であることを反映して台が高くしてある仏壇が主流です。それに対し、三河仏壇は押し入れに入るよう180cmほどの高さで台が低くなっているのが特徴。その分胴が長くなりますので、意匠にも違いが出てきます。

そんな都築さんに転機が訪れたのは、当時全国規模で行われていた仏壇コンクール。そこに出展する新商品開発を行ったことがきっかけでした。

都築さん コンクールで金賞を取れたのでこれで少し世界が変わるかなと思ったんですが、全然何も変わらなかったんですよね。仏壇が培ってきた伝統技術のことをもっと一般の人たちにも知ってもらいたいと、アート業界に飛び込みました。名古屋の「クリエイターズマーケット」や東京の「デザインフェスタ」などでブースを借りて発表するようになったんですが、勢いがいいんですよね。それでアートの世界にハマり、人脈を増やしていきました。それから知り合った人たちとグループ展や個展を開いたり、海外出展したりと、それからはあっと言う間に進んでいきました。

そんなアートの世界に魅了された都築さんが最初に手がけたのが仏壇職人4人で結成した「アートマンジャパン」。その活動はトントン拍子で進んでいき、結成5年目にはニューヨークで個展を開催。さらにその翌年にはドイツでも個展を開くほどになりました。

「海外でも伝統工芸は通じる」と確信した都築さん。しかし、その中で一つの疑問が湧き上がります。

都築さん 「仏壇の新商品開発ってそもそも必要?」って気づいたんですよね。仏壇はそのままでもいいのだけれども、仏壇の周りをもっとオシャレにする方がいいのではないかなと。例えば仏壇の周りをトータルコーディネートするような家具を仏壇の技術で作る。そういったことでマーケットを新しく作っていこうよと、次の展開をはじめました。

業界の枠を飛び越えて活躍する都築さん。現在は仏壇店としての仕事とデザインワークの仕事が半々程度で、さらに大学での非常勤講師や執筆寄稿なども手がけており「何足のわらじを履いているのか分からない」と話されるほど幅広く活動されています。常に新しいことを模索し、外へ外へと広げて行く都築さんの熱量にインタビュー中から大いに刺激を受けました。

「買ってもらってこそ伝統は残る」100年先を見据えた都築さんの新たな挑戦。

仏壇の世界は分業制。「八職」と呼ばれる八種類の専門職がそれぞれの分野を担当し、その技術が集まって仏壇が出来上がります。それゆえに、新商品開発では苦労が絶えなかったそうです。

都築さん 新しいものを作ろうとしても、八人の職人さんたちを説得して、全て指示を出していかなければいけない。若い頃なんかは作って貰いたいモノがなかなかうまく伝わらなかったり「そんなの作れるか!」と言われたり、とにかくいろいろ苦労しました。でも、逆に言えば多種多様な職人を自分が窓口となってコントロールできるということ、これが大きな武器になるとも思いました。漆を塗れる職人、金箔を貼れる職人、金物を作れる職人、他にもたくさんの職人さんがいますので、そうした職人さんたちの力を集めれば何でも作れちゃうんですよね。

都築さんの仕事は、現代風に言えば「クリエイティブディレクター」に相当するもの。三河仏壇が培ってきた伝統技術とアートなどの新しい世界が結びついたのも、都築さんの高いディレクション力の賜物であると感じました。 そんな都築さんの活動はサブカル方面にまで拡大。「漆塗りフィギュア」や「ウルトラ木魚」などが誕生しました。その中で、都築さんは「伝統工芸」を他産業に結びつけるときの難しさを感じられたそうです。

都築さん 伝統工芸の世界なら認められる「刷毛で手塗りをしたときの風合いの良さ」というのが、他業界では必ずしも良しとしてくれない場合があるんです。たとえばおもちゃ業界なんかは「塗りの美しさ」を大切にします。だから一度フラットにして考え、あえて「エアガンで漆を塗る」という技術を漆職人さんと一緒に開発しました。それをおもちゃ業界に売り込んだら小ロットからやってみましょうという話になり、最終的に8体限定で漆塗りのフィギュアを販売。そうしたところ、決して安い商品ではないにもかかわらず60人以上の申し込みがある人気振りとなりました。

この取り組みを通じて都築さんが感じたのは「『伝統工芸が売れない』のではなく『欲しいと思ってもらえるモノを作っていない』」ということ。人間国宝クラスの職人であれば別として、単に伝統工芸だから、手作りだからでは高い値段で買ってもらえないことを受け入れなければいけないと話します。

それでも、伝統が培ってきた技術は必要とされる分野がある、特に「日本らしさ」が求められる分野ではその役割は大きいそうです。

都築さん 漆は昔、英語で「japan」と呼ばれていたんですよね。正に「日本らしさ」の代表みたいなもの、「japan」の冠がついた工芸品が海外で通用しないわけではないんです。だから、「japanという名前のものを新しい形で復興させたら面白く無いですか?」と話すとみんな興味を持ってくれる。今の伝統工芸にはこういった「プレゼン能力」が必要だと思います。それと、同時に求められるのが「技術の細分化」。伝統工芸が持つ様々な技術の中でどこが武器なのかを細分化して見極め、そこを切り取って売っていく。今はそういう時代になっているんだと感じます。

サブカルと伝統工芸の技術とサブカルの世界を結びつけているのも、伝統工芸の素晴らしさを知ってもらうための入り口としてのこと。特にキャラクターは興味を持って貰うコンテンツとして最適だと都築さんは話します。実際、円谷プロからの依頼によって制作したアート作品「ウルトラ木魚」は予想以上の大反響となり、新聞などにも数多く取り上げられました。

「買ってもらってこそ伝統が残る」と話す都築さんですが、その一方で「伝統をどこまで守り、どこまで否定するか」のさじ加減が難しいと言います。一歩間違えたら大きくバランスが崩れてしまう中で、自分の中でイメージされているやりたいことや世界観をどのように周りの人たちに伝え、理解して貰うか。

最後に、都築さんが今後取り組んでいきたい分野を尋ねたところ、原点回帰ともいえる「祈るもの」と答えが返ってきました。

都築さんこれからはもう一度祈るものに向き合おうと考え、「位牌」デザインをもう一度やろうかなと思っています。祈るものってやっぱり大切だなと思っていて。仏壇ではなく、もっともミニマムなもので100年残せるものを作りたい。それが次の伝統かなと思います。

東日本大震災で被災された人たちへの支援の一環として位牌の修理も担っている都築さん。住環境の変化や時代の流れの中で人々が求めるものが変化する中でも「祈るもの」を求める気持ちは変わらない。だからこそ、人々が持つ祈りの思いをオーダーメイドで形にして、こだわったものを提供できる仕組みを作りたいと都築さんは話されていました。

今までは伝統工芸をアートの世界に広げるためにやってきた「技術の細分化」を、位牌という原点回帰の分野でもう一度行い、これから100年残る伝統の礎を作っていく。都築さんのこれからの取り組みが大変楽しみになるインタビューでした。

都築さんがほっとひと息つきたいときに食べたくなる味「かあちゃんうどん」

「元気になるものが好き」という都築さん。その極めつけがおにぎりで、がぶっとかぶりつくと元気が出ると言います。汗をかく職人には塩が不可欠ということもあり、特に「ささめ(塩昆布)」入りのおにぎりが一番の好物とのことです。

それに加えて元気の源となっているのが晩酌のビール。落花生をおつまみにビールでカーッと喉を潤すのが、パワフルな都築さんを支えています。

そんな都築さんのもう一つの好物が「かあちゃんのうどん」。小さい頃から親しんできた鶏肉と里芋が入ったうどんが何ともホッとする味で、今でも時々食べたくなるそうです。都築さんが「かあちゃんのうどん」は、都築さんの母が祖母から受け継いできたもの。ここにもまた受け継がれた伝統を見ることができました。

「職人めし」レシピ

材料(2人分)

材料分量備考
うどん2玉
里芋1個
人参1/2本
鶏肉100g
油揚げ2枚
しいたけ2個
だし汁600ml
しょうゆ大さじ1
みりん小さじ1
大さじ2
小さじ1/2

作り方

手順調理内容
1鍋に湯を沸かし、うどんを茹でてザルにあげておく。
2里芋、人参は拍子木切りにする。
3しいたけは薄切り、油揚げは細切りにする。
4鶏肉は一口大に切る。
5鍋にだし汁と具材を入れ、火にかける。
6具材が柔らかくなったら、調味料を加える。
7①のうどんを加え、ひと煮立ちしたら完成。

今回の職人

職人データファイル:020

都築数明さん

都築仏壇店

愛知県額田郡幸田町/仏壇師

高校卒業後アメリカに留学し、ワシントン州にあるエベレットCC数学科を卒業。その後父の経営する都築仏壇店に入り、ものづくりの楽しさに目覚める。仏壇業界の枠を飛び越えて、伝統工芸の技法を応用したアート性の高いプロダクトを発表し続けている。クリエイティブディレクターとしても活動。

https://www.kuro-t.com/

次回予告

日本の伝統文化に携わる職人に、その仕事に対する想いとこだわりのレシピをインタビューするメディア「職人めし」。次回の「職人」は松本市で眼鏡枠を制作する職人、「犬飼 厚仁」さん。

ぜひ次回の記事もお楽しみに!