仕事やモノづくりへのこだわりと同じく、食にも独自のこだわりを持つ職人をフィーチャーする「職人めし」。
第3回目の今回は、大正12年(1923年)の創業当時から変わらぬ製法で酢づくりを続ける、石川県金沢市・今川酢造の3代目当主・今川英雄さんと、50年寄り添ってきた知佳子さん夫妻にお話をうかがいました。
婿養子として酢造の世界に。「親父」の背中から学んだ蔵の仕事
金沢市で50年間お酢づくりを手がけてきた今川さん。しかしもともとは酢業界との関わりはなく、24歳のときに奥様の知佳子さんとお見合いで出会ったのが酢造の世界へ入るきっかけだったそうです。
今川さん 私はね、名古屋の大学を卒業しまして、今川酢造へ24歳の時に養子に来たわけなんですわ。つまり女房の実家がここだったんです。前はコンベアとか機械関係の資材の仕事をしとったんです。
養子に入った後は、先代の背中を見て酢作りを学びながら蔵の仕事を始めたそうです。とくに先代は多くは語らず、背中で見せる職人肌の方だったとのこと。今川さんで3代目となる今川酢造さん。先代や初代を「親父」「私の祖父」と話すご主人からは、家族の温かく強い絆、そして引き継いだ想いを大切にする信念を感じました。
6ヶ月の手間ひまこそのまろやかな味わい
そんな家族の絆で受け継がれてきた酢作りの技術。今川さんはどんな想いでお酢と向き合っていらっしゃるのでしょうか。
今川さん 今の製法(静置発酵法)は初代から守ってきたもんで、これは守っていきたい。酒造りから酢を作るとこなんて珍しいよ。
静置発酵法でつくられた今川酢造の酢は口当たりがまろやかで、多くのアミノ酸を含むことからうまみのある独特な酢になるそう。通常の酢であれば約1週間から1か月でできる工程が、静置発酵法では6か月と長期間になるものの、その味わいを維持するためにも続けているとのことでした。今川酢造のお酢には、伝統とこだわり、そして、今川さんの愛がたくさん詰まっています。
そんな今川さんの酢作りにおけるこだわりは、菌との向き合い方にも表れています。「酢もお酒も菌なもんですから。酵母菌と酢酸菌ですけど、菌はものを言わないからね。一年中発酵する酢の菌に向き合うっちゅうか性質を理解することですかね。」と今川さん。長くゆっくり自然のチカラだけで発酵させる静置発酵法だからこそ、「菌」と向き合う期間も長く、菌との対話が味に大きな影響を与えているのでしょう。
50年間一緒に暮らし、愛情をかけた「子ども」のような存在
最後に酢造りにひたむきに向き合ってこられた今川さんにとって、お酢とはどのような存在なのかお聞きしました。
今川さん うーん、どんな存在かなあ。お酢は50年間一緒に暮らしてきたのでね、子どもみたいなもんだよね。愛情をかけて、心穏やかに向き合っていかないと答えてくれない。
今川さんにとってのお酢とは、かけがえのない子どものような存在。いつも笑顔でいることを心掛けているというご主人だからこそつくることのできる優しい味。手間ひま、そして時間も労力もかけた、愛情のたっぷりこもったお酢をぜひ味わってみたいですね。
職人が日常で見つけた、お酢を使ったアレンジめし
そんなじっくりつくられたお酢のおすすめの使い方を聞いてみました。今川さんがおっしゃるには、料理に1日15ccのお酢を使うことがおすすめだそう。少しの量をいつものお料理に加えるだけで、違った味わいになるとのこと。
<アレンジ1>お味噌汁の味をまろやかに
お味噌汁1杯に対して、小さじ2分の1ほどのお酢をプラス。お酢の量はお好みでとのことですが、今川さん曰く、白みそや合わせみそとの相性が良いそうです。お酢を入れることで、お味噌汁がまろやかに上品な味に生まれ変わります。
<アレンジ2>焼きそばやラーメンに
焼きそばやラーメンにも、1人前に対し小さじ2分の1程度お酢をプラス。もちろんお酢の量はあくまでお好みで。焼きそば?と疑問に感じましたが、考えてみたら焼きそばに紅ショウガが添えられていることをすぐに思い出し、納得しました。紅ショウガは酢漬けの漬物、そりゃ合いますよね。
<アレンジ3>そうめんのつゆに
そうめんのつゆに小さじ1/2のお酢をプラス。いつも夏場はそうめんのつゆにいれるという、今川家の定番メニューだそう。
お酢を加えるとはじめは酸味でカボスをいれたような爽やかさですが、米酢ならではのまろやかさ優しい味のつゆになります。
「職人めし」レシピ
いつものお味噌汁にお酢をプラス
材料
材料名 | 分量 | 備考 |
---|---|---|
味噌汁 | 1杯 | |
酢 | 少々 |
レシピ
手順 | 調理内容 |
---|---|
1 | お好きなお味噌汁を用意する |
2 | お酢を少し加える |
今回の職人
職人データファイル:003
今川英雄さん・知佳子さん
今川酢造
石川県金沢市/酢造職人
大正12年から続く伝統の味と製法、お酢への愛情を守り続ける3代目ご夫妻。
次回予告
日本の伝統文化に携わる職人に、その仕事に対する想いとこだわりのレシピをインタビューするメディア「職人めし」。次回は時代を超えて青銅器作りに携わる村瀨哲也さん。
ぜひ次回の記事もお楽しみに!